現在、大学・高校をはじめとした教育現場では新型コロナウイルス感染症の対応に追われています。この状況のもとで、歴史教育の担い手である非常勤講師・兼任講師に対する十分な配慮がなされていない恐れがあります。また、待遇の悪化により、生活面で不安を抱える事態が生じることが懸念されます。
この事態を鑑み、日本歴史学協会若手研究者問題特別委員会は、非常勤講師・兼任講師の方々からこの問題についての意見・要望を募っており、さまざまな回答を寄せていただいております。文部科学省・各教育関係機関には、以下の懸念・不安に対する配慮と適切に対応するように求めます。
1.新型コロナウイルス感染症への各教育機関の対応が遅滞なく非常勤講師・兼任講師へ連絡が届くように適切に配慮・対応すること
2.休業期間を含め、本来予定された賃金を保障するように適切に配慮・対応すること
※文部科学省通知(2020年3月24日付、第7項目)では非常勤講師の業務体制の維持が求められています。
3.遠隔授業実施に伴う非常勤講師・兼任講師の負担増加に補助を含めた適切な配慮・対応を行うこと
4.非常勤講師・兼任講師に対して、就業上の安全衛生対策を適切に配慮・対応すること
5.非常勤講師・兼任講師が新型コロナウイルスに罹患した場合、賃金補償を含めた適切な配慮・対応を行うこと
2020年4月22日
日本歴史学協会
若手研究者問題特別委員会
・(座談会)「新型コロナウイルス感染拡大下の大学教育を考える――問題意識と情報の共有に向けて」
・これは大学を越えた問題ですので、非常勤講師が今後も大学教育に携わり続けられるように、文部科学省が 全大学に、非常勤講師の休業時の賃金補償を要望することが望ましいと考えます。
・例えば、change.org では、「非常勤講師に賃金保障を!」という署名が行われ、6200人以上が賛同しています。その結果を受け発信者の Nakayama Yoshikoさんが、内閣総理大臣、文部科学大臣、厚生労働大臣に以下の4点をまとめた要望を提出するとのことです。私もこれらの要望に賛同します。/(1)休業における賃金補償をおこなうこと(予定されていた時期の給与の支払いも求めます)/(2)契約打ち切りに対する制限をおこなうこと(仕事を失った場合の全額補償も求めます)/(3)遠隔授業対応への手当て/(4)新型コロナウイルス罹患時(うたがいも含む)の賃金補償/日歴協も、このような動きに賛同し、各所に要望を出していただけると大変ありがたいです。
・文部科学省は早急に実態を集約し、一律に毎月三〇万円の援助金を配布するようにもとめます。生活費のみでなく、図書館、大学の利用不可能などの中で研究条件に様々な支障が出ます。それをふくめた相当の補償がなくては研究条件を維持できないと思います。そもそも非常勤講師を御願いして教育の一定部分を依存するのがおかしいことですが、少なくとも、このような手当無しには、研究者としての生き方、そして教育体制も頓挫してしまいます。 外出自制に協力する以上、相当の補償を求めます。
・すでに準備のため契約時間以上の不払い労働を強いられているのですから、当初契約どおりの時間分の休業補償は最小限なされなくてはなりません。その上で少なくとも半期後に再開できるなら、あらためて当初の条件で、あるいは遠隔講義を前提とした条件で再契約してしかるべきと考えられます。学生には、休業期間中の学費を当然免除すべきであることは言うまでもありません。
・カリキュラムおよび教学保証が大学教育の根幹であるなら、教育研究の基盤を提供できない以上、中途半端な対処で右往左往するのではなく、少なくとも半期はすべての学年を遅らせる等、より踏み込んだ対処をまず考えなくてはならないのではないでしょうか。
・文科省がきちんと大学入試の共通試験を少なくとも半年は延期する、大学を再開できるかどうかは感染症の流行と医療体制の余力をみて半期毎に見直し、科学的な根拠にもとづき数ヶ月前には必ず通知するとして、はじめて受験生も親御さんも混乱することなく、小中高校も安心して休むことができるのです。(その上でさらに在学生とくに新入生、そして小中学校の子どもたちへの配慮は欠かせません)
・文科省には大学がいま本来の使命を果たせる状況にないことをみとめて、ただでさえ受験生を不安にさせている共通試験の実施を少なくとも半期は延期すること、経済界には次年度新卒者の採用にあたり柔軟な対応をとるよう申し入れを行うこと、かつ可能な限り早期にこれらの決定を表明するように、つよく学協会からの働きかけを求めたいと思います。
・やはり1番の心配なのは収入です。各月のコマ数に対して支給してくれる大学では、前期休講となれば収入が絶たれると思うので、不安です。
・最も不安に感じているのは賃金に関することです。多くの大学では4月に授業が開講されないなど、授業期間が通常の年度よりも短縮されています。また、今後状況が悪化すれば、5月以降も休講が続く大学が出てくる可能性も考えられます。そのような場合に、休講期間の賃金が出るかどうかは、専業非常勤講師にとっては死活問題になります。非常勤講師の賃金は低く、貯蓄をすることも難しいため、収入が途切れる月が出ると、短期間でも生活が維持できなくなる講師は少なくないと思われます。
・ウェブ講義ないしは録画で対応して欲しいとなったときに、手元の機材で間に合うのかどうか、間に合わなかった際に大学側が補助してくれるのか。
・ライブで講義をする場合、もし技術的なトラブルが発生した場合、どのようなサポートをしてもらえるのかがわからない。事務も在宅勤務になっており、その点が不安。
・自宅からの配信に耐えられるPCとネット環境が無い場合、大学まで行って対応せざるをえないが、研究室の無い非常勤の場合、どこで配信や録音録画などをすればよいのかわからない。また、緊急事態宣言の中でも大学に行かざるをえなくなる可能性がある。
・いま無理矢理すべての講義をオンライン化してのりきれると考えるのは、絶対に間違えています。そもそも非常勤当該および学生全員の通信条件、それに各大学の情報機器および通信インフラのキャパシティとコストを、きちんと見込んでいるとは思えません。
・いま専任の先生方の相当数が、おそらくは春休み中の会議経験から、これまでの対面方式の講義を遠隔会議システム等の動画による双方向通信で代替する用意をされているように見受けられます。このままでは、5月に東西の主たる大学が一斉に大講義をはじめるとき、インターネットの国内トラフィックはかつてない規模に増大しても不思議ではありません。これほどまで大規模な移行をテストもなしに実施するのは、通常では考えられない無謀なことです。/事実、早速4月初旬に新学期をはじめた東京大学や立命館大学では、定員の相当数がアクセスしただけで認証システム等の処理能力を超えたことが報道されました。認証システムが動かなければ、受講登録・出欠・成績その他の連動した教学システムも信頼できないばかりか、学籍メールでさえ即時性・確実性を担保することはできません。またNII提供の学認シボレスが動いていても、各大学で一元化された認証サーバそのものが応答しなければ、eduroamでさえ利用できません。また、ボトルネックは学内システムだけの問題ではないのです。/国内バックボーンのキャパシティが限界に至るとき、いうまでもなく各所で通信障害が頻発するのみならず、大手通信キャリアはまず格安MVNO事業者等への割当帯域から削減する可能性がたかく、支払える価格による通信格差が露呈するに違いありません。大なり小なり必ず、教育の機会均等に反する帰結を招くことになります。
・どうしても非常勤への連絡は遅くなってしまうようで、大学によっては先行きがなかなか見えてこない。
・どの大学もそうですが、とくに国立教育大学は対面方式にこだわる点も理解できなくはないものの、非常勤講師への通知は五月雨式で度重なる状況判断の変化に翻弄されています。また学生に対する配慮の点から考えても、現在実質的に大学の機能を喪失したまま、無理な再開に踏み切るのはよくないと感じています。
・非常勤講師には、急遽シラバスの書き換え等の対処を求められています。これらは大学により半年から数ヶ月前には提出済みで、勤務場所・実施方法とも契約済の労働条件の一方的な不利益変更に他なりません。しかも遠隔講義を前提として講義計画を書きなおすことは、一から講義を作りなおす(一冊の教科書を書き下ろす)ことに相当します。
・ついに国会図書館まで遠隔複写サービスの受付を停止しました。特任講師としての所属大学では、まだ学内者向けの貸出のみ配慮してくれていますが、事実上すべての図書館が機能停止、緊急事態宣言に基づく休業要請の行われた自治体では、入構規制がしかれ構内での研究活動を制限、実験系にも不可欠な機器設備さえ利用できない事態になっています。
・今回、若手研究者問題についての意見集約ということで、私も少しばかり意見発信したいと思いました。/私はすでに非常勤講師を16年ほどやっています。親から引き継いだ事業の他に臨時の講師アルバイトの経験もありますが、年数を重ねた割には日々の雑用に忙殺され、研究時間の確保は難しい状態です。いずれの職も労力の割には収入が少なく、海外への渡航資金が捻出できない状態です。さらに家庭を築くことも難しい状態です。私の大学院時代に、博士課程を目指す他大学の研究候補生たちと交流したことがありますが、彼らのほとんどが生活基盤の確立に難儀しているということでした。そこで親しくしていた人は、研究者としての道に見切りをつけて、民間企業の雑用係のような仕事に就いたと話していました。/今回の新型コロナウイルスの対応では、多くの研究者を目指す若手の方には、収入源のご心配があるかと思います。私のようにこれだけ長く研究者としての安定基盤を目指してがんばってきたつもりですが、その活動はいまだに報われてはいません。その原因には、社会全体が研究活動に無理解であり、さらに歴史学は理系研究と異なるため、企業利益にも直結しないこともあり、今後、一層難しさを増すかと思われます。最近まで知人にも若手の研究者がいましたが、当人は収入源が得られないことから研究者の道を断念し、ひとまずは公務員などの仕事に就いたとの連絡をもらっています。/これから研究者を目指す人は、研究だけで生活していくのは難しいので、民間企業への就職が妥当ではないかと思われます。非常勤講師が今回のコロナウイルスの件で多くの人が雇止めにあっていると聞きます。ここまで続けられてきた自分は、兼業で持ちこたえたので、まだ幸運な方だったと思います。現況を見るにつけ、日本の学術研究は崩壊に向かっているのではないかと思われます。研究に行き詰まり、自殺者も出るような情勢です。本当の地獄が来る前に、研究者各自の生活基盤の安定策を優先することをお勧めします。