内閣府は、去る二〇二三年四月一七日に開催された日本学術会議第一八七回総会の席上において、日本学術会議の会員選考に際して選考諮問委員会なるものを設置することなど、日本学術会議の政府からの独立性を侵害する内容を含む日本学術会議法の改正案を提示した。こうした政府当局による学術の独立性への介入は、かつて超国家主義や軍国主義によって学問・研究の自由やその学問としての存立を脅かされた痛恨の過去を有する歴史学の研究者として、とうてい容認できるものではない。
日本学術会議は、同総会の場において、声明「「説明」ではなく「対話」を、「拙速な法改正」ではなく「開かれた協議の場」を」を採択し、あわせて日本学術会議法第五条にもとづく勧告「日本学術会議のあり方の見直しについて」を行っているが、日本歴史学協会は、こうした日本学術会議の対応を全面的に支持するものである。
政府は日本学術会議の勧告を受け、第二一一回通常国会への改正法案提出を見送った。法案には、日本学術会議の活動に行政・産業界の意見を反映させることなど、その独立性を棄損しかねない内容が含まれている以上、当然のことである。
米英独仏などの民主主義を標榜する国々においては、いかなる財政基盤に立つ場合にも、アカデミーの独立性の尊重はいうまでもない原則となっている。政府等にたいして普遍的な科学的知見に基づき独立して行われる助言は、アクチュアルな課題に対処する際にも不可欠な参照要件であり、多角的な視座からの熟議こそが、民主主義の基盤を強化するからである。八名のわが国のノーベル賞等受賞者や、六〇名を超える国外のノーベル賞受賞者から、日本学術会議の独立性が侵害されることへの危惧が表明されていることからも、独立したアカデミーの意義が国際的に共有されていることは明らかであろう。政府当局者は、これに謙虚に耳を傾け、今後、このような民主主義国としての常識を欠く法案提出を試みることのないよう期待する。
歴史に学ぶ限り、もし日本学術会議がその自律性を失って政府や経済界の論理に従属させられる事態が現実化すれば、その予想される未来は決して明るいものではなく、日本における「学術の終わりの始まり」(日本学術会議第一八七回総会「声明」)を招きかねないのは、火を見るよりも明らかであろう。
改めて、私たちは、政府と日本学術会議が、開かれた協議の場において対話を継続することの必要性を強調するとともに、政府当局者には、日本において学術の独立性が侵害されることを危惧する声に真摯に耳を傾けるよう強く求めるものである。
二〇二三年五月三一日
日本歴史学協会
大阪大学西洋史学会
大阪歴史学会
交通史学会
駒沢史学会
首都圏形成史研究会
上智大学史学会
駿台史学会
戦国史研究会
専修大学歴史学会
総合女性史学会
地方史研究協議会
中国四国歴史学地理学協会
東海大学史学会
東京歴史科学研究会
東洋史研究会
内陸アジア史学会
奈良歴史研究会
日本アメリカ史学会運営委員会
日本史研究会
日本史攷究会理事会・委員会
日本風俗史学会
白山史学会
東アジア近代史学会
福島大学史学会常任委員会
文化史学会
法政大学史学会
歴史学研究会
歴史学会
(賛同団体、2023年6月20日現在)